Thomas gemma Cantuarie [Thomas cesus in Doveria]
トマス、カンタベリーの至宝〔トマス、ドーヴァーで〕
primula
第一のお方
[emulo]
〔仇なすものに〕
fide pro tuenda [lesus]
信仰を守るために〔害されたお方。〕
cesus in ecclesia, [a divina repentina mira caritate]
聖堂で討たれ給う。〔神の不可思議の愛はすみやかに〕
a divina repentina mira caritate [fulgens]
神の不可思議の愛はすみやかに〔まばゆく〕
fulgens [matutina vespertina lucis increate]
まばゆく〔朝な夕なにみずから輝く、〕
matutina vespertina lucis increate [gratis]
朝な夕なにみずから輝き〔恵みの〕

[rivulo]
〔流れが、〕
gratia
恵み
[patulo]
〔あまねくあるように。〕
late
広がる。

tibi nova reparte [sublimaris curia manens in eternitate]
あなたは新たに選ばれ〔天の宮廷に昇り、永久に住まわれる〕
sublimaris curia regis pro fidelitate [patris]
天の宮廷に昇り、その王に尽くす。〔父なる神のもとに。〕
tua [a ruina repentina per te libertate]
あなたは〔破滅からすみやかに解き放ち給う、〕
a ruina lete bina per te libertate [sunt sane]
破滅からすみやかに解き放ち給う、〔まことに〕
sunt a fece et ab amaro [tu doctrina medecina serva sanitate]
澱みと苦しみから〔教えと医療で人を健やかにし〕

malo
悪しくも
[tremulo]
〔おののきや〕
frivolo
軽薄な
[sub dolo]
〔悪だくみを〕

a sentina serpentina gentes expiate [purga]
眠らずの蛇の原罪をつぐない〔打ち破り〕*1
et a viciis [a sentina serpentina gentes expiate]
超克し〔眠らずの蛇の原罪をつぐない、〕
singularis nuncuparis gratia ditatus [dirige]
特に優れて恵まれた者として〔導かれる、〕
super [singularis nuncuparis gratia ditatus]
超越し〔特に優れて恵まれた者とされた〕
hinc perfectos et electos tu es sublimatus [super Remu atque]
全くも貴いものとして選ばれ〔レムスと〕*2

[Romulo]
〔ロムルスの民、〕
rivulo
流れ
[tremulo]
〔おののくローマの民から抜きん出て。〕
madido
うるおし

pie sanans egros [tu per sanctos et electos pie sublimatus]
病める民を慈しみ癒す。〔神聖で貴い信仰心ゆえに選ばれ、〕
preciosis generosis gemmis tumulatus [merito]
すぐれて貴い宝の塚、〔その美徳により〕
aureis [peris in ecclesia decora tumulatus]
黄金に〔聖堂内の飾られた墳墓に葬られた。〕

modulo
飾られた
[stimulo]
〔試みられ〕
tumulo
墳墓に
[primulo]
〔第一の〕

cum decore vel honore pie laureatus. [de Sancto]
まことの誉れに装われて葬られた。〔聖者として〕
In celis [in honore et decore pie laureatus]
天において〔まことの誉れに装われて。〕
inter cives celicos digne veneratus [gaudiis]
崇敬でもって天の会衆に迎えられた。〔喜びと〕
Thoma nunc pro [inter cives celicos summe veneratus]
トマスよ、今も〔崇敬でもって天の会衆に迎えられ〕

populo
民が
[querulo]
〔限りなく〕
stimulo
試みに
[celo]
〔天に〕

tempestatis caritate fervida rogatus.[sine fine manens tam beatus.]
あう時には慈しみを垂れ給え。〔祝された者として住まわれる。〕

*1 蛇にはまぶたがないため、不眠であると考えられていた。
*2 ローマを建国したとされる双子の兄弟。雌狼に育てられたという。

text & tune: 14世紀英国の作者不詳の歌

カンタベリーのトマス・ベケット、及びドーヴァーのトマス・ド・ラ・アルを讃える中世の曲。14世紀に作られたものだが、二つのパートを交互あるいはかけあわせ、歌詞を絡み合わせているというとても特殊な歌い方をする。

トマス・ベケット(Thomas Becket 1118-1170)は12月29日を祝日とする聖人。イングランドがカトリックだった頃、イングランドの全教会を統括するカンタベリーの大司教となった。教会の自由をめぐって国王ヘンリー二世と対立し、12月29日に暗殺された。ヘンリー八世のカトリック分離政策までは非常に人気の高かった聖人で、チョーサーの『カンタベリー物語』は、カンタベリーに巡礼に来た様々な階層の人々を語り手に据えている。トマス・ド・ラ・アルは1295年にドーヴァー修道院がフランスから略奪を受けた際に殺害された僧侶。ドーヴァーはカンタベリーにほど近く、スティーヴン王終焉の地として知られる。

ヒリヤード・アンサンブル
収録アルバム: Medieval English Music
Thomas gemma Cantuarie
Thomas gemma Cantuarie
harmonia mundi
2009-01-13





おまけ:大法官時代は国王の右腕として活躍し、大司教となってからはうってかわって国王と激しく争い、七年間フランスに亡命し、カンタベリーに戻った後に暗殺されるというベケットの数奇な運命は、文芸作品の題材となった。エリオットの『寺院の殺人』は、1935年のカンタベリー・フェスティバルの芝居のために書き下ろされた。信仰に殉じることを願う一方で、それ自体が名声への欲望や奢りにすぎないかもしれないというベケットの苦悩を描く。見ようによっては祖国よりもカトリックを優先した裏切り者なので、BBC歴史マガジンが行った読者投票では、この千年間の最低の英国人の第2位(1位は切り裂きジャック)に選ばれている。

誘惑者:
殉教の道を求めるがいい、
地上でだれよりも低いものとなるのだ、
天国でいや高くあるために。
そして脚下はるかに横たわる深淵の底で
あなたを虐げたものたちが、終わりなき業苦のうちに、
罪の償われるあてもなく、
欲望に身を焼かれるさまを見おろすのだ。

トマス:
いやだ! おまえはいったい何者だ、
わたし自身の望みを餌に誘惑するとは?
他の連中は現世の誘惑者たちだった、
そのさし出す快楽と権力にはそれとわかる値段がついていた。
おまえはなにをさし出そうというのだ?
なにが望みなのか?

誘惑者:
あなたの望んでいるものをわたしはさし出しているだけ。
あなたがどうせ手放さなければならぬものを
わたしは望んでいるだけ。
これを高望みとはおっしゃるまい、
この世ならぬ永遠の栄光が手に入るというのだから。

トマス:
ほかの連中のさし出した利益は現実的だった、
そう、価値はない、
だが現実的な利益だった。おまえのさし出すのは
地獄落ち必定の幻想だけだ。

誘惑者:
その幻想にたびたびお耽りになったではないか?
(トマス・スターンズ・エリオット作 高橋康也訳『寺院の殺人』)

寺院の殺人
寺院の殺人
T.S.エリオット
《リキエスタ》の会
2001-07T



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