ウォルター・クレーン(1845 – 1915)
絵本「幼子のオペラ」より「コック・ロビンとジェニー・レン」


"Twas on a merry time,
When Jenny Wren was young,
So neatly as she danced,
And so sweetly as she sung,
Robin Redbreast lost his heart,
He was a gallant bird;
He doffed his cap to Jenny Wren,
Requesting to be heard.
それは愉快な時代だった、
ミソサザイのジェニーが若かりし頃*1
彼女がそれはそれは上手にダンスして、
甘い声で歌っていた頃。
赤チョッキのロビンもハートを奪われたものだった、*1
ロビンは騎士道精神ある鳥だったから、
ジェニーに向かって帽子を取って
申し込んだのだった。

"My dearest Jenny Wren,
 if you will but be mine,
 You shall dine on cherry-pie,
 And drink nice currant-wine.
 I'll dress you like a Goldfinch,
 Or like a Peacock gay;
 So if you'll have me, Jenny, dear,
 Let us appoint the day."
「ああ最愛のジェニー、
 もし僕のものになってくださるなら
 さくらんぼパイのごちそうで、
 上等のすぐりのワインを飲みましょう。
 あなたを黄金のヒワのように、*2
 華やかなクジャクのように着飾らせたい
 もし僕のものになってくださるなら、愛しいジェニー
 さあ日取りを決めましょう。」

Jenny blushed behind her fan,
And thus declared her mind,
"So let it be to-morrow, Rob,
 I take your offer kind;
 Cherry-pie is very good;
 And so is currant wine;
 But I will wear my brown gown,
 And never dress too fine."
 ジェニーは扇子の陰で頬を染め
 かくして彼女の心は決まった。
「それでは明日にしましょう、ロブ*3
 あなたの申し出お受けしますわ。
 さくらんぼパイだなんて素敵、
 すぐりのワインも素敵
 でもわたしは茶色のガウンを着ていくわ、
 派手すぎるドレスなんて着たくないの。」

Robin Redbreast got up early,
All at the break of day,
He flew to Jenny Wren's house,
And sang a roundelay;
He sang of Robin Redbreast,
And pretty Jenny Wren,
And when he came unto the end,
He the begam again.
赤チョッキのロビンは早くに目覚めた、
夜明けの頃のことだった。
ロビンはジェニーの家に飛んでいき、
ささやかな歌をさえずった。*4
歌うのは赤チョッキのロビンと、
かわいいミソサザイのジェニーの歌。
そしてロビンは曲の終わりまで来ると
また繰り返して歌ったのだった。

*1 今時チョッキとか言わないのかもしれない。直訳すると「赤胸」。ロビンはイギリスの国鳥であるヨーロッパコマドリを指す。まちがっても日本とかアメリカではない。19世紀頃の郵便配達人は赤いチョッキを着ていたため、ポストカードのデザインにロビンが頻繁に登場するようになったという説もある。
*2 Gold finchはヨーロッパ原産のゴシキヒワと、アメリカ原産のオウゴンヒワがいる。まれにヨーロッパ原産キアオジも指す。ゴシキヒワとキアオジは真っ茶色のミソサザイに比べたらカラフルかもしれないが、びっくりするほど派手でもないので、もしかするとオウゴンヒワのことかもしれない。
*3 ロビンの愛称。まれにボブとも。そもそもロビン自体がロバートの愛称。ロバートは愛称のバリエーションがやたら多いので知られる。
*4 roundelayはリフレインが多い歌や詩。時に輪唱。

text & tune: Walter Crane(1845 – 1915)の1900年出版の絵本『Baby's Opera (幼子のオペラ)』より

原型らしきものとしては、19世紀後半(1870年頃?)に出版された児童向け絵本「Aunt Kitty's Stories(キティおばさんのおはなし)」に「THE MARRIAGE OF COCK ROBIN AND JENNY WREN(コック・ロビンとジェニー・レンの結婚)」として収録されている作者不詳の長い詩がある(これが文献初出ではない可能性は大いにある)。
原詩ではこのあとロビンたちは様々な鳥たちを集めて盛大な結婚式と披露宴が執り行われるのだが、カッコウ(同じ鳴き声を繰り返すことから狂人を暗喩する)が乱入してめちゃくちゃにしてしまい、スズメが怒って弓矢を持ち出すが誤って花婿ロビンを射殺してしまうという悲しい結末になっている。
もっともよく知られるマザーグースWho Killed Cock Robin《誰がロビンを殺したの》の明らかなパロディでもある。

ただし、この絵本が出る以前からロビン(コマドリ)とミソサザイは対の存在であるとする民間信仰があった。キリスト教が伝わる以前から、胸に火を宿したロビンは復活する太陽と新年の象徴、対して全身茶色の地味なミソサザイは冬と旧年の象徴であった。太陽が最も短くなる冬至の日、冬の王であるミソサザイを追い回して殺すという奇妙な風習がイギリスに存在した(The Wren In The Furze《金雀枝の中のミソサザイ》およびThe King《鳥の王》というキャロルでその一端がうかがえる)。また、ロビンは雄だけ、ミソサザイは雌だけしかいないと信じられており、繁殖の際はこの二種類でカップリングするとされた。「the robin and the wren are God's cock and hen(コマドリとミソサザイは神の雄鳥と雌鳥)」ということわざもあり、むやみに傷つければ神の怒りに触れると考えられていた。

なお、ロビンとジェニーは常にラブラブであったわけではなく、前述の『キティおばさんのおはなし』には、ジェニーはロビンの病気見舞いを受け取っておきながら回復すると邪険にし、二回目は本当に病死してしまったが今度は動物たちが藪医者っぷりを発揮してロビンに叩き出されるというお話(『Jenny Wren fell sick upon a merry time(ジェニー・レンが楽しんでいると病になって)』)が収録されている。

ビアトリクス・ポターの『ピーター・ラビットのてがみの本』では、ロビンとジェニーのカップリングを前提とした手紙が収録されている。

ピーターラビットのてがみの本
ビアトリクス ポター
福音館書店
1992-04-30


ちなみにディズニーアニメにも登場しているが、それは《誰がロビンを…》の記事で詳述。

ウォルター・クレインの美しい絵本の全容は、以下のサイトで公開されている。

かつてはほるぷ出版から「復刻・マザーグースの世界」としてほぼ原本に近い精緻な複製が出版されたが、現在は入手困難なようだ。もし入手出来たら大事になさってください。
以下のようなオンデマンド印刷本は廉価だが粗悪品をつかまされることもあるから注意しよう。



インストゥルメンタルのみの音源
収録アルバム:Collection of beautiful Story-telling Lullabies for Kids 2
Cock Robin and Jenny Wren
HUKS MUSIC
2023-05-11


長らく歌唱入りの音源はYouTuber有志のものくらいしかなかったのだが、このたびロック調の歌唱動画を発見した。なぜにロック調。


収録アルバム:Mother Goose Rides Again
The Marriage of Cock Robin and Jenny Wren
Flyiing South Productions
2025-10-29


おまけその2:ロビンとジェニーのカップリングはヴィクトリア朝時代に大変人気を博したらしく、様々な絵本に彼らの物語が掲載された。ディケンズの『互いの友(我らが共通の友)』という小説では、ジェニー・レンはとある健気な少女のあだ名として使われた。