《CAUTION!! この記事には性的な記述が含まれています》


Now, the minstrels sing of an English 
king of many long years ago
He ruled his land with an iron hand 
though his morals were weak and low
His only other garment was a dirty yeller shirt
With which he tried to hide his hide, 
but he couldn't hide the dirt
さて、英国人の吟遊詩人が歌いまするは
はるか大昔の王様のお話
その鉄拳でもって国を治めたが
道徳心のかけらもないときた
汚れて黄ばんだシャツ一枚のほかに着るものなし
それで隠しどころをなんとか隠そうとしたが*1
不潔さまでは隠せなかった

*He was dirty and lousy and full of fleas
 But he had his women by twos and threes
 God bless the Bastard King of England
*不潔でシラミだらけでノミだらけ
 なのにいつも女を二、三人はべらせてた
 神の祝福あれ、かの英国のお下劣王に

Now, the Queen of Spain was an amorous Jane
A lascivious wench was she
She longed to play in her loving way 
with the king across the sea
So she sent a royal message 
with a royal messenger
To invite the King of England down 
to spend the night with her
さて、スペイン女王の多情なるジェーン*2
ふしだらな好色女とは彼女のこと
その房中術を用いたお戯れを切に御所望なされた
海の向こうのかの王様と
かくして高貴なる信書をば遣わされた
王室の通信使にことづけて
イングランドの王をお招きし
女王と夜通し過ごされたしと

*Refrain
*繰り返し

Well, when Phillip of France he heard it by chance
He declared before his court
"The Queen prefers my rival 
 just because I'm somewhat short"
So he sent the Count of Zippity-Zap
To give to the Queen a dose of clap
To pass it on to the Bastard King of England
時にフランス王フィリップたまさかこれを聞き及び*3
廷臣たちの前でのたまわれた
「かの女王はわが宿敵を好いておる
 それというのも朕がいささか短小ゆえ」
それゆえミコスリ伯を遣わされた*4
スペイン女王に淋しい病を与えて*5
それを英国のお下劣王に伝染(うつ)すべく

*Refrain
*繰り返し

When the King of England heard the news
He cursed the Gallic farce
He up and swore by the royal whore 
he'd have the Frenchman's arse
He offered half the royal purse 
and a piece of Queen Hortense
To any British subject who'd undo the King of France
英国王が新たな知らせを耳にされたとき
大陸仕込みの悪ふざけに悪態をつき*6
王の愛妾の名に賭けて誓われた*7
フランス野郎のケツをしばきのめしてくれると*8
譲ってやろう、国庫の半分と
王妃ホーテンスの玉体を*9
仏国王を打ち倒さんとする英国の民には

*Refrain
*繰り返す

So the Earl of Sussex jumped on his horse 
and straightway rode to France
Where he made a pass and he stripped 
the sash from Phillip's pajama pants
And in front of a throng he slipped on a thong
Leaped on his horse and galloped along
Draggin' the Frenchman back to merry England
そこでサセックス伯は馬に飛び乗り*10
フランスへの道をひた走った
かの地にて早業仕掛け、たちまちに引き抜いた*11
フィリップのパジャマのズボンの帯紐をば
それを公衆の面前でするりと下帯として締めて*12
馬にひらりとまたがり、駆け抜けて
フランス野郎を引きずり懐かしき祖国へとってかえした

*Refrain
*繰り返し

When the King of England he saw the sight, 
he fell in a faint on the floor
For during the ride his rival's hide was 
stretched a yard or more
And all the maids of England came down to London town
And shouted 'round the battlements, 
"To hell with the British crown"
英国王はこれをご覧になると
気を失い床に倒れ伏した
それというのも宿敵の隠しどころが*13
1ヤードかそれ以上に引き伸ばされてたから
イングランド中の若い娘たちがロンドンへやってきて
城壁の周りでこう叫んだ
「ブリテンの王冠なんか地獄へ堕ちろ!」

So Phillip of France usurped the throne
His scepter was the royal bone
With which he bitched the Bastard King of England
かくしてフランスのフィリップが玉座を簒奪した
その王笏(おうしゃく)は尊くおカタいもの*14
それで英国のお下劣王をさんざんにいたぶったとさ*15

*Refrain
*繰り返し

*1 肌、皮膚は通常skinだが、「衣類で隠すところ(hide)」から派生して「hide」とも呼ぶ。
*2 ジェーン(スペイン語形だとフアナ)という名を持つスペイン女王は歴史上存在しないが、しいて言えばスペインの前身のひとつであるカスティーリャの女王としてフアナ(狂女フアナという異名でも知られる)がいる。中世あたりのイギリス人にとっては、カスティーリャもアラゴンもポルトガルも全部いっしょくたにして「スペイン」という認識であったらしいので、フアナをスペイン女王と見なしている可能性はある。高校世界史に必出のカトリック両王ことフェルナンドとイザベルの娘で、夫の美男公フィリップに対する異常な執着心から、亡夫の棺を馬車に乗せて何年もの間カスティーリャ国内をさまよったという逸話があるが、奔放な女性であったというわけではない。えらい風評被害だ。その上在位期間も後述のジョン王、フィリップ2世とは200年以上かけ離れている。もちろんウィリアム征服王とはもっとかけ離れている。
*3 フィリップの名を持つフランス王は何人かいるが、特に有名でなおかつイングランドと争ったフィリップといえばフィリップ2世。欠地王ジョンと争って大陸におけるイギリス領を切り取り、それまで単なる有力領主のような存在でしかなかったフランスの王権強化の素地を作った。
*4 Zippity-Zapとは「ビュンッ」「バシュッ」というような激しく素早いものをあらわすオノマトペ。早いってナニが早いんですかねえ。性病がたちまちのうちに伝染する様子をあらわすとも。
*5 a dose of clapとは直訳すると「淋病の一撃」。淋病は女性は無症状のことが多いが、男性は激しい排尿痛や膿という症状が出やすい性病。国家的バイオテロすな。
*6 かつてローマ帝国においてイングランドが「ブリタニア」と呼ばれたように、北イタリアからフランスにかけてを「ガリア」と呼んでいたことから、「ガリア」はイギリスから見て「大陸風」という意味が込められている。
*7 近世ヨーロッパでは公妾、寵姫とも呼ばれる側室制度が存在した。フランスではMaîtresse royale、イギリスではRoyal mistress(いずれも「王家の愛人」の意)と呼ばれたが、royal whore(王家の娼婦)とこきおろされることもしばしばであった。
*8 arse=ass。直訳すると「奴の尻を所有する」となるが、突然のホモ宣言…ではなく「ボコボコに叩きのめす、こっぴどく罰する」というスラング。
*9 ホーテンスという名でなおかつ王妃である人物は、せいぜいナポレオン3世の母でホラント王妃のオルタンス(フランス語形)くらいしかいない。おそらくフランスとの語呂合わせで出てきただけに過ぎない名前。
*10 あらかじめ断っておくとサセックスという地名は実在する(ウェセックスもある)。英国(と英国連邦)人もやっぱりサセックスって地名はあれだよなあ…って思ってるんだ。
*11 make a passは突撃する、攻撃を仕掛けるという意味。(異性に)言い寄る、巧みに口説くという意味もあるので、解釈によっては男色ハニートラップを仕掛けにいったようにも読めてしまう。
*12 slip onは靴や衣類をさっと身に着けること。thongは通常ひも状の何かを指すが、いわゆる「紐パン」を意味することもある。つまり、サセックス伯はフランス王の帯紐をふんどしみたいに装着したのである。突然の露出行為。
*13 皮膚がhideとも呼ばれることは*1で触れたとおりだが、この場合のびろびろに伸びきった皮とは…国中の女に「もうイギリス王いらない!」と思わせるナニかである。ついでに、トンネルもないのにロンドンとフランスの間をどうやって馬で往復したのか。
*14 王家の骨って何?と思うが、これはboner(骨が入ったかのように硬くおっ立てたアレ)とひっかけた言葉。みんなホモオチやめろ。
*15 bitchは「雌犬」が原義だが、動詞になると「いじめる、こきおろす、台無しにする」という意味になる。

text & tune: 19世紀ごろに発祥したと考えられている、作者不詳の民謡

注をつけるまでもなく、一から十まででたらめの下ネタソング、いわゆる春歌・バウディソングである。朕のチンてやかましいわ。

Bastardは現在は「ろくでなし」「嫌な奴」「劣悪なもの」という意味で使われるが、古くは庶子、私生児、婚外子という意味があった。英国の歴代君主の中で庶子から君主になった人物は、ヘースティングズの戦いを制しノルマン朝を開いたウィリアム1世(征服王、庶子王とも呼ばれる)を除いて一人もいない(一時的に庶子とされたのはメアリー1世とエリザベス1世がいる)。
ノルマンディー公ウィリアム
北フランスノルマンディーのノルマン人。1066年にイングランドを征服し、ノルマン朝を開いた。
 www.y-history.net

英語圏では非常によく知られた歌で、世界史尽くしの内容から高名な知識人・文学者・作家が作詞者ではないかと目されることもある。ラドヤード・キプリングがこの詩を書いたせいで桂冠詩人の称号を失ったというまことしやかな風説があるが、『Bawdy Ballads』でこの歌を紹介したEd Crayは「もしそれが本当なら、キプリングは大人気曲の作者ということになれたのに」(意訳)とコメントしている。

The Bastard King of England
Audio Fidelity
2019-08-19


(CDのみ)


Bawdy Ballads
Blond
1970-10-01


王の綽名 (日本経済新聞出版)
佐藤賢一
日経BP
2023-11-10



おまけ:ディズニー謹製のアニメ映画『ロビン・フッド』には、この歌をパロディにした劇中歌The Phony King of England《英国の偽王》が登場する。兄王リチャードが不在の間にイングランドをほしいままにするジョン王子を揶揄する内容だが、キッズ向けなのでパロディと言ってもむしろ元ネタより穏健になっているという皮肉。


ロビンフッド (吹替版)
キャロル・シェレイ


収録アルバム:Walt Disney Records The Legacy Collection: Robin Hood
The Phony King of England
Walt Disney Records
2021-04-02


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